『ふがいない僕は空を見た』(著:窪美澄)を読んで、人間の醜さと爽やかな風が同時に吹き抜けた
窪美澄さんが書いた本
『ふがいない僕は空を見た』
人間の悪意、嫉妬、貧富の差、育ちの違い、性癖。
醜い想いが存分に入っているにも関わらず、なぜか、爽やかで涼しげな読後感。
不思議な本でした。
読み始めは、下世話なだけの、少しフィクションがかった内容の本なのだと思いましたが、ページを捲るにつれて、登場人物たちの二面性や、奥深さが丁寧に掘り下げられていきます。
短編集かと思いきや、視点の違う同じ物語が続く長編で、視点が変わったときに、次の主役は誰なのかわからずに読む数ページが、また、ワクワクしました。
・取り返しのつかないことをした人
・深い悪意に軽く触れたい人
・すっきりした気持ちになりたい人
・短編が好きだが、長編にトライしたい人
そんな人におすすめです。
性描写がありますので、そこだけ注意です。
⚠ 以下ネタバレ含みます ⚠
主人公は、母子家庭育ちの高校生で、母は助産院を営んでいます。
平和な日常を送っていましたが、コスプレしながら中年女性と性行為をする、少し間抜けにも感じられる不倫を続けていたことが周りにばれて、引きこもりになります。
主人公の不倫相手は、頭が弱く一人では生きていけない女性で、ストーカー気質の好きでもないマザコン男性と結婚して生きていきますが、義母から不妊治療について強要され続ける日々。
その他にも、様々な複雑な事情を抱えた、後ろ暗い人生を背負った人が次々に登場してきます。
そして、彼ら彼女らは、それを背負ったまま生きていく。
そんな物語でした。
取り返しのつかないことを、ろくに考えずに、発作的にしてしまうことは、きっと誰しもあります。
どうしようもない衝動に駆られることは、きっとあるんです。
そんな時、自分は自分を律することができるのか?
そう、自らに問いかけたくなりました。
この本は、キャラクターの描き方が独特でした。
必ず、一人残らず、みんなそれぞれ事情を抱えていて、いろんな顔や、いろんな性格を使い分けて、または振り回されながら生きているのだと、あの手この手で教えてくる一冊です。
特に、主人公の友人が、表面的にはいいやつなのに、裏では、主人公の悪評をひろめる手助けをする場面では、急展開すぎて少し読み返してしまいました。
勝手に信じて、勝手に裏切られたわけです。
彼は、表面はいいやつでも、中身は複雑な子供であるということに気が付きます。
両親のいない、誰も頼れない団地の中で、認知症の祖母の面倒を見続けるためにバイトをする日々。
そんなの、どこか折れ曲がるに決まっています。
いや、そんな複雑な事情がなくとも、皆どこかは折れ曲がっているのかもしれません。
昔、私が学生の頃、バイト先の明るくて人懐こい新人のパートさんが、盗みを働いたことがありました。
そのとき、こんなに身近に悪意はあったのか、と驚いたものです。
周りの人を善良だと信じている自覚もなく、私は、人間は皆きれいなものだと思い込んでいました。
物語の中の汚い大人たちは実在しないのだと、たかをくくっていたのです。
しかし、今、社会人になってから、色々な人を見て、色々な経験を積んだ今、わかります。
本当に色々な人がいて、しかも、その人は時間と共に、経験と共に、別人へと変化していくのだと。
この本も、私が学生の頃に読んでいたら、
「あまりにフィクションの中の世界のことでつまらない」
と考えて低評価を付けたはずです。
でも今は、こんな複雑で汚い心情や行動は、身近にあって当たり前の、人間の持ち味なんだ、と思えました。
自分の純粋さや無知さを測ることまでできてしまうこの本。
読んでよかったです。
読みやすい文で、登場する人物の年齢層も広いこの作品は、誰が読んでも読みやすくて馴染みやすく、暗い話なのにどこか爽やかな不思議な本でした。
もしも、暗い物語を読みたいけど、落ち込みたくない方がいれば、最適な一冊です!
コメント
コメントを投稿